退職するのは裏切り？

そんな不安を抱えながら退職を検討している方も多いはず。

しかし結論から言えば、退職は労働者の当然の権利であり、「裏切り」ではありません。

「裏切り」と言われるのはなぜ？背景と本音を知る

転職先が決まってから退職することに対して「裏切りだ」と言われる背景には、日本の古い職場文化と、人手不足による現場の本音が深く関係しています。

・なぜそう思われる？終身雇用と“会社は家族”という価値観
・退職による業務への影響と感情的負担

なぜそう思われる？終身雇用と“会社は家族”という価値観

日本では、終身雇用や年功序列を重視する雇用文化が長く続き、特に中高年層では「会社に長く尽くすことが美徳」とする価値観が根強く残っています。

経団連の2021年の報告書でも、「長期雇用慣行が依然多くの企業で存在している」とされ、こうした職場では転職が「忠誠心の放棄＝裏切り」と受け取られやすい傾向があります。

上司や年配の同僚ほど「辞める＝逃げる・裏切る」と感じやすく、「育ててきたのに」「踏み台にされた」と受け止められることもあります。

これは、個人のキャリアよりも組織への忠誠を重視する日本独特の文化的背景に起因しています。

退職による業務への影響と感情的負担

リクルートワークス研究所の調査（2022年）によると、「人手不足を感じている」と答えた企業は、全体の68.1％に上ります。
出典：リクルートワークス研究所

辞めること自体よりも、「残された側の業務負担」が、実際には一番の不満ポイント。

こうした声は、裏切りというより“困惑や不安の裏返し”ともいえるでしょう。

そうした心理を理解することで、円満に退職するための「伝え方の工夫」も見えてきます。

「転職＝裏切り」ではない3つの理由

①退職は法律で認められた権利
②ポジティブなキャリア選択を否定すべきでない
③会社と社員、どちらにも都合がある

①退職は法律で認められた権利

労働者は、民法627条に基づいて原則2週間前に退職の意思を示せば、自由に退職できます。

つまり、どんな理由であっても「辞める自由」は認められているのです。

もちろん職場への配慮は必要ですが、必要以上に罪悪感を抱く必要はありません。

②ポジティブなキャリア選択を否定すべきでない

転職は「より良い人生」を選び取るための、前向きな決断。
転職＝裏切りというのは、成長や挑戦を否定する価値観です。

③会社と社員、どちらにも都合がある

企業だって、業績次第で人員削減をしたり、配置転換をします。

社員だけが「義理や恩」に縛られるのは不公平です。
お互いの立場や事情を尊重し合うことが、本来の“誠実な関係”です。

伝え方で変わる印象｜裏切りと思われない退職理由とタイミング

・会社批判」より「感謝と前向きな理由」を伝える
・伝えるタイミングと手順のポイント

「会社批判」より「感謝と前向きな理由」を伝える

退職理由を伝えるときは、以下のようなポジティブ＋感謝型がベストです。

例文①：キャリアアップ型（スキル向上・挑戦意欲を強調）

「◯◯さんのもとで多くのことを学ばせていただきました。この経験を活かし、これまでとは異なる環境でさらに自分の可能性に挑戦してみたいと考え、今回退職を決意いたしました。」

🔹 ポイント： 感謝 → 成長志向 → 前向きな挑戦
🔹 使いやすさ： ほぼすべての職種・業界で応用可能

例文②：ライフプラン・価値観の変化型

「この会社での仕事を通して、自分の働き方や価値観について改めて考えるようになりました。

今後はより自分のライフスタイルに合った働き方にチャレンジしてみたいと思い、退職を決断しました。これまで本当にお世話になりました。」

🔹 ポイント： 自己理解 → キャリアビジョン → 感謝
🔹 使いやすさ： ワークライフバランス、家庭、地方移住など多様な理由に対応

例文③：専門性・目標明確型

「こちらで得た経験を通じて、自分がより専門的に取り組みたい分野が明確になりました。

その分野に特化した業務に挑戦したいという思いから、新たな環境へ進む決意をいたしました。

これまでのご指導に心より感謝しております。」

🔹 ポイント： 専門分野への志向 → 感謝 → 理解を得やすい構成
🔹 使いやすさ： 専門職・資格職・技術職などに最適

例文①：成長の方向性の違いにフォーカス

「この職場で多くの経験を積む中で、仕事への価値観や進みたい方向が少しずつ明確になってきました。

さまざまな考え方に触れることができたからこそ、自分に合った環境にチャレンジしてみたいと考えるようになりました。

これまで本当にありがとうございました。」

🔹 ポイント： 「考え方の違い」に言及しつつ、ネガティブな表現は避ける
🔹 使いやすさ： 人間関係が退職理由の一因である場合

逆に、「不満があった」「評価されなかった」などの言葉は避けた方が無難です。

伝えるタイミングと手順のポイント

・繁忙期を避ける
・退職希望日の1ヶ月以上前には相談する
・口頭での報告＋書面の提出を丁寧に

たとえば、ある中小企業で働いていた30代女性は、転職先が決まった段階で上司に退職の相談をしたところ、

「これから繁忙期なのに…」「裏切り者だな」と冗談交じりに言われたといいます。

彼女は2ヶ月前から引き継ぎ計画を立て、マニュアルも整備しましたが、最後まで周囲から冷たい対応を受け続けたそうです。

このケースでは、タイミングの悪さと人手不足が重なったことにより、彼女の退職が「裏切り」と捉えられたと考えられます。

転職＝裏切りとされてしまうのは、制度的な問題ではなく、職場に根づく文化と人間関係の感情的側面によるものです。

その背景を理解したうえで、丁寧な説明や配慮をもって対応することが、円満退職への第一歩となります。

転職先を伝えるべき？引き止めやしつこい質問への対応法3選

転職先を伝えるかどうかは必ずしも義務ではなく、状況に応じて伝えるべきか判断すべきです。特に引き止めや詮索がしつこい場合は、「伝えない権利」もあることを理解し、冷静に対応することが大切です。

①「転職先が決まっている」と伝えるかどうかの判断基準
②しつこい質問・感情的な反応のかわし方
③嫌がらせ・無視されたら？取るべき行動

①「転職先が決まっている」と伝えるかどうかの判断基準

1.法律上、転職先の開示義務はない

労働基準法や民法上、退職時に転職先を開示する義務はありません。

企業は退職者の進路を把握したがることはあっても、個人の進路はプライバシーであり、強制されるものではないとされています。

これは、厚生労働省の「個人情報保護に関するガイドライン」にも明記されています。
出典：厚生労働省の「個人情報保護に関するガイドライン」

2.情報漏洩や嫌がらせリスクを避けるためにも慎重な判断を

リクナビNEXTの調査（2023年）によると、転職者の約3割が「転職先を伝えたことでトラブルになった経験がある」と回答しています。

特に同業他社や競合への転職を伝えた場合、「裏切り」と見なされたり、妨害や嫌がらせの対象になることもあるため、慎重な対応が求められます。

②しつこい質問・感情的な反応のかわし方

退職時にしつこい質問や感情的な言動を受けた場合は、感情的に返さず、冷静かつ誠実に受け流す対応が最も効果的です。

答えたくない内容は明確に線を引き、必要な範囲だけに留めましょう。

1.退職者は心理的な標的になりやすい

人材サービス企業エン・ジャパンの調査によると、退職者の約4人に1人が「嫌がらせや冷たい対応を受けた経験がある」と回答しています。

この背景には、辞める側への不満や寂しさ、引き継ぎへの不安が複雑に絡んでいます。

出典：エン・ジャパン「退職に関する意識調査（2022年）」

2.感情的な応酬は状況を悪化させるだけ

職場内で感情的な言動が交わされると、職場全体の空気が悪化します。

特に退職が決まった立場では、相手の挑発に乗ることは得策ではありません。

厚生労働省が示す「職場のパワーハラスメント予防指針」においても、感情のぶつけ合いは「不適切な職場関係」の原因の一つとされています。

【対応のポイントまとめ】

・伝えたくないことは、無理に話す必要はありません。
　転職先や家庭の事情など、話したくない内容は「個人のプライバシー」として守られて当然です。

・感情的な言葉には、感謝で返すのが大人の対応です。
　たとえきつい言葉をかけられても、「これまでありがとうございました」「大変お世話になりました」と、あくまで冷静に伝えましょう。

・聞かれたくない話題には、丁寧に線を引いてOK。
　たとえば「これ以上の個人的な内容については控えさせていただけると助かります」とやわらかく断れば、角が立ちません。

・どうしてもつらい時は、ひとりで抱え込まないで。
　相手の態度がエスカレートするようなら、信頼できる上司や人事、社内の相談窓口に早めに相談しましょう。

③嫌がらせ・無視されたら？取るべき行動

・発言やメールを記録として残す
・ハラスメント相談窓口・労基署への相談も視野に
・一番大切なのは「転職先に影響を与えないこと」

実際の退職手続きと注意点｜円満退職に必要な段取りとは？

円満退職を実現するためには、退職の意思表示から、退職日までに必要な手続きを、計画的に進めることが重要です。

加えて、引き継ぎや書類処理、有給取得などを丁寧に行うことで、最後まで信頼を損なわずに、職場を離れることができます。

・退職日・引継ぎ期間・有休消化の考え方
・退職理由の書き方・伝え方・姿勢の最善の方法
・退職代行やエージェントの活用も選択肢

退職日・引継ぎ期間・有休消化の考え方

時期	やること
約3か月前	就業規則の確認、退職意思の決定、 転職活動の開始
約1〜2か月前	上司へ退職の意思を伝える、 退職日を決定、引き継ぎ準備 （後任者が困らないよう、 マニュアルや進行中業務のリストを準備）
約2週間〜1か月前	退職届の提出、社内外への挨拶、 有給休暇の調整
最終出社日	備品返却、書類受け取り、 最終挨拶（メール＋対面で感謝の意を 伝えると印象◎）
退職後	失業保険・健康保険・年金・ 住民税などの公的手続き

退職理由の書き方・伝え方・姿勢の最善の方法

退職理由は、前向きで誠実な表現を心がけるのがベストです。

批判や不満を避け、相手への敬意と感謝を示しながら、「自分の意志」で未来に進むという姿勢を伝えることで、円満退職につながります。

1.会社や上司への批判は感情的な摩擦を生む

厚生労働省の「職場のトラブル解決事例集」では、退職時に上司との信頼関係が悪化した理由の多くが“伝え方の失敗”にあると指摘されています。

「この会社では成長できない」「人間関係が最悪だった」などのネガティブ発言は、感情的対立を招きやすくなります。

2.退職理由の印象が、退職後の評価や推薦にも影響する

エン・ジャパンの調査によると、約6割の管理職が「退職理由次第でその人の印象が変わる」と回答しています。

「前向きで応援したくなる理由」が伝われば、退職後も関係を良好に保てる可能性が高くなります。

退職理由の書き方

・履歴書や書類では「一身上の都合により退職」といったシンプルな定型表現が基本です。
必要以上に詳細を書く必要はありません。

・どうしても理由を記載する場合は、「キャリアアップのため」「家庭の事情のため」など前向きな言葉を使い、簡潔に1行程度にまとめるのが望ましいです。

退職理由の伝え方

・上司への口頭説明や面接などでは、ネガティブな表現を避け、前向きな理由を中心に据えることが重要です。

・例えば「人間関係が悪い」などの直接的な表現は避け、「新しい分野に挑戦したい」「これまでの経験を活かしてキャリアアップしたい」といった建設的な説明に言い換えましょう。

・家庭の事情などプライバシーに関わる場合は、必要最小限の情報で誠実に伝えるのがポイントです。

伝える際の姿勢

・冷静かつ丁寧な態度で、感情的にならずに伝えることが大切です。

・会社や上司への感謝の気持ちを添えることで、円満な印象を与えます。

・事実に基づきつつも、相手にとっても納得できる説明を心がけましょう。

◎ 良い伝え方の例：

「●●さんのもとで多くの学びを得ました。

この経験を活かして、今後は〇〇の分野でさらに挑戦してみたいと思い、退職を決意しました」

✕ 避けたい伝え方の例：
「給料が低いし、人間関係も最悪なので辞めます」

→ 本音であっても、相手を責めるような表現は職場に波風を立てやすくなります。

退職理由の伝え方 3つの最善の方法

ポイント	内容例・効果
① ポジティブな動機を伝える	「新しい環境でスキルを広げたい」 「キャリアチェンジのチャンス」など
② 感謝の気持ちを必ず添える	「ここでの経験があったから今の自分がある」と伝えることで、角が立たない
③ 会社や同僚への批判は避ける	不満を言っても良いことはなし。 「ステップアップ」という表現で前向きに切り替える

文書・口頭での違いと注意点

伝え方	ポイント
書面（退職届）	理由は「一身上の都合」で問題なし。 詳しい理由は書かなくてOK
面談（口頭）	直属の上司に対して、タイミングを見て丁寧に。 感情的な場面でも冷静を保つことが大切

退職代行やエージェントの活用も選択肢

退職理由は、「辞める」こと以上に「どう辞めるか」が大切です。

前向きな姿勢と誠意をもって伝えることで、退職後の人間関係やキャリアにも良い影響を残せます。

「円満に辞める力」こそ、社会人としての成熟度が問われる最後の一歩です。

【失敗回避】在職中の転職活動！退職意向を伝えるベストタイミングと注意点5選

「裏切り」という言葉に負けないために

・自分のキャリアと人生に責任を持つということ
・退職後も人間関係を良好に保つために
・体験談に学ぶ｜円満退職を実現した成功パターン

自分のキャリアと人生に責任を持つということ

退職や転職に対して「裏切りだ」と言われても、それは相手の価値観や感情に基づく一方的な見方でしかありません。

自分の人生やキャリアを前向きに選ぶことは、決して裏切りではなく、自分の意思を尊重した誠実な選択です。

退職後も人間関係を良好に保つために

最後のあいさつでは丁寧なお礼を忘れずに

SNSやメールでのつながりも、後々の財産になります。

体験談に学ぶ｜円満退職を実現した成功パターン

20代の女性は、
転職を申し出た際に「恩知らずだね」「育てたのに」と同僚に言われ、ひどく落ち込んだといいます。

しかし、彼女は退職までの2か月間、引き継ぎを丁寧に行い、感謝を込めて手紙を渡したことで、最後には「あなたなら大丈夫。頑張って」と背中を押されました。

40代で転職した男性は、
「家庭の事情」や「体調の変化」などを丁寧に説明し、職場から理解を得ることができました。

結果として、「人それぞれに事情がある」と受け止めてもらい、退職後も元職場との関係を維持できています。

実例からも、“どう伝えるか”が円満退職のカギであることが分かります。

まとめ｜転職先が決まってからの退職で後悔しないために

・「裏切り」という声の背景には誤解や不安がある。

・退職は正当な権利、正しく伝えれば円満に辞められる。

・感情的な反応に振り回されず、自分の人生を自分で決めよう。

Q&A

転職先が決まってから、退職するのは本当に裏切りなのでしょうか？

いいえ、退職は労働者の権利であり、裏切りではありません。

「裏切り」と捉えられるのは感情的な印象や古い職場文化によるものであり、法的にも倫理的にも正当な判断です。

誠実な伝え方と丁寧な引き継ぎを行えば、円満に退職できます。

転職先を上司に伝えないと失礼ですか？

転職先を伝える義務はありません。

個人情報に関するガイドラインでも、本人の同意なく第三者に情報提供できないとされています。

職場の雰囲気や信頼関係を考慮して、伝えるかどうかを自分で判断しましょう。

引き止められた場合、どのように対応すればよいですか？

冷静かつ誠実に「熟考のうえで決めたことです」と伝えましょう。

感情的に反応せず、感謝の気持ちを添えて退職の意志を再確認すると、角が立ちにくくなります。

しつこい場合は「詳細は控えさせていただきます」と距離を取るのも有効です。

退職理由はどのように伝えればよいですか？

「成長のためのステップアップ」「新しい環境で挑戦したい」など、前向きな理由＋感謝の言葉をセットにして伝えるのがベストです。

会社や上司を批判するような言い方は避け、円満な印象を残すように心がけましょう。